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Before Act
-Aselia The Eternal-

幕間 ラキオス
18:00 - 21:00



 01:00 A.M.-


「…灯火の寿命がもう来たのかな?」

突然テーブルの上に置いていた灯りが消え、壁に掛けている灯りも消えてしまった。
シリアは夜空の明かりを頼りに灯りの消えた灯火を色々と弄くり調べている。

「いや、きっと違う。見てみれば直ぐにわかるよ、窓の外を」

ウィリアムは窓際に立ち、外の風景を見てそう言った。
シリアはその言葉に従ってウィリアムの横に立って外を見る。

「……これって――」

「うん。家だけじゃない。多分この街全体が同じ状態に陥っているんだ。
灯りが消えたのは灯火自体が寿命じゃない。灯火を点すための大気中のエーテルが不足したから灯れないんだよ、きっと」

「それってつまり、この街のマナ施設に何かあったってことなの?」

シリア自身はマナ研究の関係者ではない。ゆえにウィリアムに尋ねる。

「うん、そうとしか考えられないな。こんな現象が起こるなんて私自身経験した事ないし、他の皆もそうだと思う。
――これが夜で本当によかったよ。日が昇っている間に起こったら、灯りだけじゃないエーテル器具や器材は全部使用不能で大混乱になってたかも」

「そうね。……行くんでしょう?」

シルスは愛しい人の肩にもたれかかって呟くように問い掛ける。
そしてウィリアムはしっかりと頷いて同じく愛しい人の肩へと手を添えた。

「ああ。このままにしておくのは、研究者として放っておけない」

「気を付けてね。外はこの状態では雲がかかれば真っ暗だろうし、何よりも今夜は物騒だから。

――セリアのお友達だからというわけじゃないよ?」

「わかってるよ。君の心配の事は分かってるつもりさ」

この暗闇は偶然じゃない。きっと、スピリットを連れたあの男が絡んでいると確信している。
これから夫が行こうとしている場所はその現場。だからこそ、妻は夫を心配していた。

 01:05 A.M.-

速い。この一言に尽きる。

「――っ。何て速さなの…!」

「無駄口を叩いている暇があるのならば、その分しっかりと呼吸を整えて下さい」

ラセリオの街を疾走する彼女たちは一陣の風。
その先頭を切るのはリインであり、彼女は片手でフィリスを引っ張っている。
オーラフォトンを使えない彼女たちスピリットで、体格的にもフィリスが最も遅いからであった。

 01:09 A.M.-

「行ってくるよ。セリアの傍に居てあげてくれ」

「もちろんそのつもり。気を付けて、いってらっしゃい…」

シリアは玄関から出て行くウィリアムの背を見送った。
そして扉を閉め、両の手を胸元に置いて夫の無事を願いつつ、娘の部屋へと歩いていく。

 01:14 A.M.-

「―――」

リインは無言で空いている片手で手話をする。
三―右―二―拳―四―左。つまり三秒後に右角に曲がり、二秒間要警戒時間で合わせて四秒後には左に曲がる事を示していた。
そしてリインとフィリスの姿が掻き消える。

「見えないっての…!」

シルスがきっかり三秒後に存在する左角を曲がると、そこには暗闇に存在する影。
丁度雲がかかってお互いに見えないが、それは人間である。おそらく衛兵か何かであろう。
その横をシルスが通り過ぎ、続いてリアナも通過。そしてさらに左に曲がると、そこにはリインとフィリスの姿があった。

「おい、今なんか変なの感じなかったか?」

「知らないよ。そんな事よりも何が起きてんのか訳分かんないよ!!」

 01:20 A.M.-

それらは走る。ただ走る。

力を抑制し、本来の力の半分以下であるが為に到着までには時間がかかる。
目的に近づくためにと、そう“命令されている”から。

『………』

森林の中を走り続けるも、一向に茂る緑は晴れない。
森の中を迷ってしまった可能性を示唆できるが、それらは元よりも考えない。することは出来ない。

ひたすらに走り続ける。

それらは走り続けている。

 01:23 A.M.-

「隊長! どうやらマナ施設そのものが不調か何かで機能停止では無いものの、止まる寸前だそうです!
今、技術者たちが対応に当たっているようですが、少なくとも復旧の目途はまだ立たないそうです」

「そうか、街の様子はどうだ!?」

「今の所は問題ありません! 夜が幸いして、灯りが消えた事に起きている大人達だけが少し騒いでいるだけです。
それらは既に対応のための兵を分担して当たらせています!」

「これからはお前は自身の班の指示を取れ、報告は定時だけで構わん。用があればこちらから出向く!」

「了解しました、失礼します!」

最小限の報告を済ませ、一人の衛兵が部隊長の下を離れて再び指揮に戻った。

「――一体何が起きているんだ…?」

街を巡回していると突如として個々の家・外灯・手持ちの灯火の全ての灯りが消えてしまった。
報告でエーテル変換施設での要因と分かったが、あまりにも唐突過ぎて怖くなる。

「これが例の一件なのか――」

突然のスピリット部隊の到来。そして侵入者。
これがそれなのだろうか?

とんとん

「…入れ」

扉がノックされ、部隊長は入室を許可した。
そして入ってきたのは部下ではなく、ラキオスの紋章である龍を模った刺繍の服を羽織っている男。

「大変な時に、失礼致しますね」

「――スピリット隊隊長様が何のご用件でしょう…?」

その男はスピリットとともに首都から朝方(時間的に昨日の)から来訪したスピリット部隊の戦闘における全権及び指揮を担っている人物。
この部隊長への挨拶もそこそこに兵舎の客室へと引っ込み、来た理由さえも『詳細を説明する必要はない』と報告をしないでいた。
お陰でこの街の治安を守る立場であり、その頂点にいる部隊長は部下や住民からの質疑への返答に苦労させられた。

「そう身構えなくてもいいですよ。私はただ、これからこちらでも動く事を教えに来ただけですので」

「この街へと何の連絡もなしに訪れ、何の説明もないまま今まで閉じ篭っていたスピリット隊隊長様がどういった気の変わりようですか?」

「簡単なことです。これから私はスピリットを動かし、これから起こる事態に兵達に邪魔されたくないのです」

「…つまり、そちらが動く際にこちらの部隊が邪魔になるから手を引いていろ、と? そう仰られているのですか?」

「平たく言えば、そうなるかもしれません。ああ、勘違いしないで下さいね。
私は親切心からこうして貴方にお話しているのですから」

部隊長の男は「白々しい」と内心舌打ちをする。
人に何らかの被害が生じては自身への評価に染みができるのを避けたい魂胆だと思った。

「お話は致しましたよ? 既にスピリットには準備をさせているので、皆さんを下げるのはお早めに」

一般市民ではない丁寧なお辞儀をしてスピリット隊隊長の男は退室する。
話口調からして貴族かそれらに近い家柄なのだろうと部隊長はささやかに考えるも、思考を切替えた。

「引かせるしか手立ては無い、か」

溜め息混じりに、そう言った。

 01:37 A.M.-

「遅かったな」

「思いの他に巡回する兵の数が多く、迂回経路が多くなってしまいました。残りの要因は彼女達の足の遅さです」

目的地には既にレイヴンが立っており、リインが遅かった理由を説明している内容に荒い呼吸のシルスの顔が引きつる。

「…あれでもまだ遅く走ってたの、あんたは?」

「そうです。遅かったが為に余計な迂回ルートを新たに構築し、およそ172秒のタイムラグとなりました」

「――100秒オーバー、ねぇ…」

「途方もない時間差ですねぇ…」

言わしめた言葉の現実に、シルスとリアナは果てしなさにうわ言のように口にした。

「――で、フィリスがそうなった理由は?」

「この子が最も遅いと判断し、私自ら手を引いて連れてくる形を取りました。その際の酔いかと」

「きゅ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜―――…」

リインに抱き起こされているフィリスは目を回していた。
あまりに速い速度に足を絡ませないでいるので精一杯に、その上上下左右に疾走するリインの動きに身体も目も追いつかなかったのである。

「そうか。まだの様だから問題はないな」

「レイヴン。ここを集合地点としたのはどういう理由からですか?」

周囲の状況を確認をしてリアナが問う。
場所はラセリオ北側を流れる川の岸。橋を渡っていないのでラセリオ側の岸である。

「奴らがこの先の森から侵入してくるからだ。
これからお前達が先行して奴らを迎撃し、森から開けたこの付近一帯を最終防衛線とする」

「森の中での戦闘ですか? その際には――」

「向こうはこちらを視認すればオーラフォトンを展開するだろう。
戦闘になれば嫌でもラセリオ駐屯中のスピリット知られる。その点の判断は個々に任せる」

「了解しました」

「あんたも戦いに参加するの?」

リアナに続いてシルスも疑問を問い掛ける。

「それはお前達の成果次第だ」

「そう。なら、出番はないかもしれないってことよね」

「そうなるな。ワザと逃がす様な真似はくれぐれもしないように」

「そんなヘマはしないわよ」

「ならば、問題あるまい」

そう言って足元で擦り寄っていた金糸雀色の大型犬のような動物、゛霞゛は喉を撫でられて嬉しそうに鳴いた。

 01:51 A.M.-

森の闇が消え去り、それらは星の光の下に姿を見せる。
目的の為に――いや、そうするしか教えられていない、“知らない”から。
森という空間内では見渡す限り同じ様な木々や茂みが生い茂っており、空間認識能力は極端に低下する。
そのためであろう、それらは目的の方向からかなり離れた開けた場所に出ていた。

『………』

しかし、そんな事に向ける感情もそれらにはない。目的を遂行する。それだけ。
ここでの誤算があるとすれば、現在のその目的の場所からは灯りが灯っていない。

それも“何一つとて”

お陰で進むべき道しるべが確認できず、それらは始めて移動を止めた。

『………』

お互いに交わす言葉はない。する必要も、しようとも考える事は無い。
だが幸いにも、目的の場所から天空へと突き刺さるように輝く光は確認できた。
その光はいつものそれよりもあまりにも弱々しいが、存在していた。

『―――』

それを見上げ、頭に存在する命令を反芻――プロセスの工程確認を行う。
該当するも、何も変わらない。それらは再び走り出した。


――ただ、破壊するために。


 02:03 A.M.-

「――来たか?」

服装の最終点検をしていると、ふいに霞が北へと振り向いて耳をそばだてた。

「橋を監視する兵はいる可能性も示唆できる。先刻のあれで対岸まで投げ飛ばす。
後の判断はお前達に任せる事になる。いいか、戦闘時間には常に気を配れ。遅れれば双撃に遭う」

「OK. 任せなさい。あんたの出番なんて出させないわ」

「あちら様も私達と同じ様に気配を殺しているのかもしれませんね。その点に注意して接敵しましょう」

「がんばりますっ!」

「時間限界及び合流地点への誘導には霞を向かわせます。
私やレイヴンは合流地点での合流となりますので、時間と相手に翻弄されて二の足を踏まないようにお願いします。
また、負傷による退却の足手纏いにならないように。目的はあくまでも相手の撃破、ないし足止めです。お忘れなきように」

レイヴンとリインによる最終簡易確認を聞きつつ、準備を整えた三人。
服装そのものは戦闘の為に不要な荷物はレイヴンに預け、最低限の荷持ちであった。

「制限時間はどちらかが気配を解放し、展開するか。閃光や爆音でラセリオのスピリットに動かせる要因が出来た時か、だ。見誤るな」

「了解しています」

「わかってる。タイミングを外してたらそれこそ危ない状況になるわけだしね」

レイヴンはリアナの手を掴み、リインがフィリスの手を掴む。そして駒のように回転をして対岸へと両者共に投げ飛ばす。
視界が暗いために地面に並行するように投げたため、フィリスとリアナが勢いを足で殺している音が遅れてシルスの耳に入った。

「シルス」

レイヴンが手を差し伸べ、シルスはその手を掴み返す。
そして先の二人と同じく投げ飛ばされ、空気を切り裂きながら対岸へと着地。
丁度フィリスとリアナのいる付近で止まったため、直ぐに目配せをする。

「んじゃ、行くとしますか!」

「はいっ」

「うにっ!」

 02:16 A.M.-

雲の隙間から降る光で暗闇の街の輪郭が見える。
それらも距離を詰めた事によって視認できるようになり、走る速度を上昇させた。

『―――』

ふと、進行方向から小さな点が見えた。それらはそのままの速度で注視する。
点は三つ。動いている?…接近している?

『―――…』

距離と夜の悪視界、そして雲がその点らを覆い隠しているために情報が得られない。

『…――、―― ―」

赤髪をしたそれらの一人が呟いている。
その点が何であろうとも、それらは邪魔となるものがあるならば排除するだけ。

「――ファイアボール」

その呟きで炎弾が複数個、点へと飛翔する。

――ごごごごご…

着弾の熱波がそれらへと軽く吹き返されたが、一時的に夜風の暖になった程度である。

『………』

それらはマナを利用し、エーテルを活性化させる。
先ので隠れる意味が失われたと、そう教えられていたか。

「状況開始! あちらさんはもう隠す気は無いようね!」

そんな声が聞こえてきた。点は未だに健在、黒煙の向こうから迫り来る。

 02:19 A.M.-

「戦闘が開始されたのか!?」

「そうですね。神剣の気配が北の森から発生しているので、至急撃破に向かわせましたよ」

部隊長はスピリット隊長の男に抗議の声を上げる。

「何故もっと早くこちらに知らせない!?」

「必要がなかったからですよ。問題はありません。直ぐにカタをつけますから」

スピリット隊長は紅茶を口に含み、味を堪能する。

「…! 失礼した!」

部隊長は見切りをつけ、即座に部屋を出る。

「…せっかちで五月蝿い奴だなぁ」

そう愚痴り、また紅茶を啜る。

 02:23 A.M.-

「ったく! 面倒な子たちね!?」

「…確かに、やり辛い感は拭えないですね」

左右に展開し、シルスとリアナはお互いに離れる。
そしてラセリオへと向かおうとしているスピリットの足止めをした。

初めは相手も直接戦おうとしていたが状況が拮抗すると判断したのか、隙を見ては突破してそのまま街へと向かおうとする。
今もシルスとリアナが同じ場所で固まった状況に数名が穴を掻い潜って突破しようとしていた。

「――っ、詠唱!!」

レッドスピリットが神剣魔法の詠唱に入っているのをシルスは見た。
キャンセル魔法のフィリスは突破されかけた相手を追撃をして足止めをしている。

――キュパァアアン!

乾いた甲高い音がシルスの脇を超高速で通り抜け、詠唱中のレッドスピリットに直撃。
オーラフォトンとの激突で激しく反応し合っても本人は無傷だが、反動で詠唱は中断された。

リインによる長遠距離援護。主に対応できない事態に対しての時間稼ぎをしてくれている。
そしてリアナが『彼方』でレッドスピリットを追撃し、連続詠唱を封じた。

(思いの外、時間がかかっている。これでは撃破は出来ないかも…)

リアナは援護の無いレッドスピリットへと連続で攻撃しつつ、そう思った。
既に予定時間の半分は経過しているはず。それでも撃破に至ったのは積極的に戦闘した時の一体のみ。
完全に拮抗して――いや、リアナたちに不利であった。

「…その命、頂きますっ!」

リアナを見ているのかどうか不安になりそうな程無表情な相手に、リアナは言って『彼方』の刃に力を溜める。

 02:32 A.M.-

戦闘はフィリスたちの不利で、殺されずにじりじりと街へと戦闘区域を下げられていた。
そして霞が乱入し、フィリスへと斬りかかってスピリットに体当たりをして吹き飛ばす。

「ありがとぉお…
お〜〜〜!!!?」

お礼を言おうとしていたのを無視して服を加えてフィリスと共に強制逃亡。

「リアナ! 時間よ!」

「了解です! 大きいの、行きますっ!!」

詠唱無しに『彼方』の切っ先から粒子砲撃を三連射。
大地に突き刺さって相手に目くらまし効果を付随させてリアナとシルスはフィリスたちの後を追った。

……

『………』

大地から吹き上がる煙が風で掻き消えるとそれらは消えていった先ほどまでも相手を見据える。
彼女らの目的などそれらには何一つ分かるはずもなく、視線をラセリオへと向ける。

迫り来る新たな点に対して――。

 02:37 A.M.-

「まだ復旧できないのかね?!」

「無茶を言わないで下さい!!? 変換施設の機能低下など過去に起きた前例はないんですよ!!
――先ほどから色々と調べて調整や設備改修を試みていますが、どれも効果がないのが現状です。
元々不安定な状態が続いてそれに追随するように調整をしてきましたから、副次的機能を確認だけでも時間はまだ掛かるでしょうし…」

「ええい、だったらさっさとしないのか!」

「それを今やっています! 他の技術者達も早急に行ってますので邪魔しないで下さい!!」

原因究明及び復旧作業の最中に文句をつけに来たラセリオの上役を追い払うウィリアム。
イースペリアへの対応に不安定なマナ供給で実力がついて行けずに立場が失われつつある為、迷惑な行動に出ていた。

「…しかし、一体何が起こっているのだろう…? 設備機能そのものに何ら支障もなく稼動中。
停止しているモノも特に不調をきたした訳でもなく、むしろ自然に停止してしまった感じがするなぁ…」

足元の器材を数回も調整確認をし、再起動しようにも直ぐに沈黙してしまっている。
どこにも負荷が掛かった様子も無いために、単なる故障や不調の類は考え辛い。

「中枢設備は辛うじて縮小可動で命を繋いでいるもののどうして…?」

計測装置で確認をしても、数値は安定している。

「……?」

そこでふと、頭に引っかかるモノを感じた。

「―――計測……設備の安定…―――あ!?」

そしてウィリアムは設備の一室から飛び出して行った――。

 02:46 A.M.-

森の中からでも遠くでの戦闘音が低くうねるように轟き、木々がざわめいている。

「目的の達成をひとまず確認、お疲れ様でした」

「これで本当に良かったんですか?」

「戦闘区域が街でないのならば、それで構いません。
シルスの目標が達成できなったとしても、それは本来の目的と全く問題ありません

リインが強調する言葉の部分にシルスがうめいて後ずさる。

「随分と強気で言っていましたが、仕留めたのは一つだけ。それもシルスではなく、
フィリスによるものでしたね」

「――ぅっ…」

「貴方自身は迎撃向きな戦闘スタイルですが、それを応用した戦い方が出来てきません。
後方への進行阻止に気を回し過ぎて『連環』を振る切れ味が鈍っていました」

「――それはー、そのー…」

「目的が足止めであったので問題はありませんでしたが、貴方が宣言した目的を遂行するには圧倒的に足りません。
今回の相手の能力を鑑みても、貴方なら十分に達成目前まで可能でした」

畳み掛けられる言葉にシルスは意気消沈。
こんな時に限って雲が彼女たちの上に掛からず、明るい中での落ち込みとなった。

「――では、個人的な意見はこの程度にしまして、次の行動に移ります」

「レイヴンは〜?」

「マスターは街での単独行動をしています。こちらへの支援は皆無です」

「何をしてるんでしょうか?」

「現在のラセリオは眠りのついています。眠りについている街に、入れない場所は無い。そういう事です」

「…そうですね。分かりました」

「???」

リアナは納得したが、フィリスには理解できない言い回しで頭を捻っている。

「つまりね、フィリス。レイヴンは今、街で色々と調べ物をしているんですよ?」

「そうですね。厳密にはもっと多面的な調査ではありますが」

 02:58 A.M.-


「うむむむむむむむむむむむむむむむむむ…!!!!」

ウィリアムは横長の紙と睨めっこしていた。
横長の紙と言っても、それは非常に長い。一直線に伸ばせばどれだけの長さになるのか考えるのが億劫に成る程である。

「まだ先だろうか、それとも後なのか…? これだけの量となると難しいのかもしれないな」

手をひとまず休め、まだ半分にも満たない確認作業にウィリアムは不安になる。

「…ネウラさん。貴方の作業ではこれはあまりにも過剰な情報収集ではないのでしょうか?」

昨日の午前中からの計測し続けた情報の量の多さに、思い出したウィリアムは部屋に入った直後に頭を抱えた。
紙の川が部屋中の床に流れていたためのである。

ウィリアムは退去命令が出された時に、レイヴンが観測装置を起動させたままのことを思い出した。
元々それほど重要とされない変換施設における波形調整。まだ手をつけられていない状態のままだった。

「…あれ? 何だろう、この波長?の乱れは…?」

気を取り直して続きの読み出したのだが、少しして波形が徐々に乱れていくのが記録されていた。

「乱れ方が規則的なようで、そうでないような。でも、だんだん大きくなって干渉し合っている?
でも、この波形と長短調の長さは一体どうやって収まっているんだろう?」

幾つかの規則的な波を打っていた波形が乱れていたが、それが大きくなると共に逆に小さくなって収まっていた。
そして新たな波形が徐々に乱れるも、それはまるで存在しなかったようにガロの数値を示している。

「―――」

考える。これは一体どういう事を示しているのか?
記述されている時間数値から、街の灯りが消える数十分前に起きた出来事なのだから無関係ではないはず。

「―――」

考える。そもそも機能が完全停止しなくて低起動で施設はまだ生きているのだろうか?
中枢本体は機能している。しかし、その他の設備の一部では完全に停止しているにも関わらず、中枢は健在。
エネルギー供給を高効率化に高性能化をするとなれば、どんな設備でも相互間性によるバランスで安定する事になる。
そうでなければ無駄は経費上、極力避けたい事であり、そんな無駄は技術者・研究者として考えられない。

「それでも、施設は機能している」

考える。何かが違う。何かが間違っているように思えてならない。
何かを読み違えているのでないかと、一マナ研究者は思考を巡らせる。

「――もしかして、停止しているんじゃなくて“待機状態になっているだけ”…?」

そこからは早かった。ウィリアムは紙を食い入るように眺める。
波形の形が乱れ、低下して安定する。そして新たな“波形の一つ”が動いて、他の波長がガロに――

「そうか、そうだったんだ!! ちゃんと機能している。
機能しているけど、今は供給されていないから起動できないだけなんだ!」

マナ施設であるのだから、その動力もまたエーテル。
エーテル供給が器材に送られなければ、燃料不足で安全装置が働いて機能停止する。

「元々エーテルが来ない状態なのだから、必要な機能だけ残っている状態になっているだけだったんだ」

ウィリアムは観測装置の機能を止め、部屋を出た。

 03:21 A.M.-

「――全滅、ですって…?」

「そうとしか言いようがありません」

紅茶を幾杯目かに差しかかったスピリット隊隊長の男は衛兵部隊長からの報告に呆然。
注いでいる給水は傾けたままとなり、カップから溢れた紅茶水がテーブルに波紋を描く。

「戦闘音が止んでから少し時間を空けても森方向から帰還するスピリットを誰一人目撃していません。
数名に確認のために向かわせましたが、戦闘地点と思しき場所からは何も居なかった様です。
戦闘していたであろう侵入者も確認できなかったので、相打ちで両者共にとも考えられるのではと――」

「そんな、馬鹿な事があるわけないだろう!!?」

「しかし現に、そちらのスピリットが誰も帰還を果たしてはいないのではないのですか?」

「尻尾を振って逃げた侵入者を追撃しているだけです!!」

「…なるほど、確かにそれならば。――失礼しました。早計でした。では」

激昂するスピリット隊隊長を受け流し、部隊長は退室。
残ったスピリット隊隊長は苛立ち、カップを壁に投げつけて叩き割った。

「役立たず共が…!!」

 03:33A.M.-

「…どう?」

「駄目。皆やられて私達だけみたい。…さっき癒し切れずに二人が――」

「…そう、か。行きましょう。まだいるかもしれない」

「ええ」

生き残ったラキオススピリットたちは今、北の森の中に居る。
さきほどの街へと迫り来る侵入者を迎撃したまでは良かったが、相手の戦闘力の高さに大きな被害が出た。
ラキオスが持てる今の最高の部隊数は今はもう四捨五入しても二桁にも満たない。

「辛うじて全員倒せたけど最後の子に、あいつは相打ち、で…」

悲しみに顔を伏せる一人。他の面々の個人差はあるが、暗い。

「…それにしても、一体誰だったのかしら、あれは…?」

「さぁ…? 味方、にしては姿が見えないし、私達が向かっている時に消えちゃってたし」

雰囲気を無理やり変えようと一人が話題を振る。その話題とは、彼女たちに先行して戦っていた謎の存在について。
彼女たちがスピリット反応に感づいて向かっていく最中に感じた戦闘。
現場に着く直前にまるで隠れるように反応が消え、残された反応はさきの戦闘をした侵入者のみ。

「それを今探してるんでしょう? それに、まだ潜んでるとも限らない」

「ええ、気をつけましょう」

各々何かしら負傷しているが既に治癒は最低限行い、後は自然治癒に任せる。

 03:42 A.M.-

「霞、どうです?」

森の中の先頭をいく霞にリインは尋ねる。
霞は耳をそば立てて幾らか動かし、ちらりと振り返るだけ。

「問題はないですね。同じくラキオスのスピリットがこちらを捜索をしている様ですが、発見には至っていないようです。
さきの交戦したスピリットも無事、全撃破された模様です」

「あんな奴らを全員? ラキオスのスピリットは凄いのね…」

「数の差で勝ってたんでしょうか? 私達の場合はこちらが数で劣勢でしたし」

「戦闘音も激しく、乱戦だった様ですからその可能性が一番高いでしょう。
ですが、損害もまた大きなものになっていた可能性も高いので、勝利というには結果は悲惨でしょう」

「…Zzz」

「まぁ、何にせよ。数が少ないのなら、あたし達が見つかり難いわね」

眠っているフィリスを小刻みに身体を揺すって背負い直すシルス。
いつもなら当然寝ている時間帯での活動に戦闘による披露が蓄積して逃げて直ぐに眠りについたのである。

「この後は直ぐに街に戻るの?」

「いえ、直ぐには無理です。街の調子が戻っているようですし、少し様子を見てからになります」

そう言って夜空を見上げ、二人も習って見上げた。

「あれは――マナの柱…ですね」

「そうね。という事は、街の灯りの調子も戻ったという事ね」

天空へと突き上げる金色の光の矛。
少し前までは薄っすらとしていただけだったのが、いつの間にはその存在を取り戻していた。

 03:54 A.M.-

「ふぃ〜〜、どうにか波形を戻す事はできた…波長もまだ小さいけど、これは少し様子を見ないと駄目かな。
待機中の設備も順々に機能が活動していくみたいだし、一安心だな」

幾人かの技術者仲間達と共にとある作業に取り掛かっていたウィリアム。
その作業は固定されていた波調整機構関連の機能の再構築。
これが思った以上に難航し、作業に取り掛かってから一時間以上掛かってしまった。

「元の資料があったからこの程度の時間だけで出来たんだし、文句は言えないな」

レイヴンの残した観測データは元々安定していた段階のであり、抜き取ればそう難しくは無かった。

「それほど大きな影響力は無いとされていたけど、こうして影響を及ぼしたという事は改善の余地があるという事なんだなぁ…」

機能を取り戻した機器を眺めて感傷に浸る。

 03:57 A.M.-

「ウィリアム・バトリさん」

「はい?」

背後から呼ばれる声がしてウィリアムは振り返ると、そこには二人の衛兵を連れた上役が居た。

「…何か用でしょうか? ご覧の通り、施設の機能は回復の兆しを見せています」

「貴方はどうやって直す方法を得たのだ?」

「…は? それはどういう意味でしょうか? 色々と調べて見つけたとしか言い様がないのですが…」

「おかしいではないですか。そんな規格外の手段でまた動くようになるなどとは」

ウィリアムは眉を潜める。

「施設の機能そのものが低下した事態そのものが不測に事態でしたので、機能回復も今までの常識とは異なっていても不思議ではないと思いますけど」

「確かにそうともいえる。だがな、これは貴方が仕組んだことなんじゃないのか?」

「――な…」

絶句するウィリアムに上役の男は薄くほくそ笑む。

「この男を連行しろ。直ぐに色々と話を聞きださねばなるまい」

 03:59 A.M.-

「…あれ? この灯りだけ、どうして点らないんだろう…?」

街に光にエーテルに光が戻り、各家の灯火も自然に点る。
それはバトリ家でも同じであったのだが、一つだけ反応しないのがあった。
夫の帰りを起きて待っていたシリアはそれを見て家にある全ての灯火の調子を確かめていたのだ。

「これはあの人の…」

その灯火はウィリアムが仕事の残りを深夜、家で片付ける際に用いていた一際古風な灯火。
シリアが何度も弄くっても中央に光が宿る気配すら感じられない。

「どうしてだろう…?」

シリアは不思議に思うも、同時に不安も感じてならなくなり、天に上るマナの光を窓から見上げる。


 04:00 A.M.-




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